リチャード・クー/日本経済を襲う二つの波 サブプライム危機とグローバリゼーションの行方(徳間書店)
<<内容紹介>>
米住宅バブル崩壊とともに噴出してきたサブプライム問題、ドル危機、食糧・資源の高騰など、いま世界が直面している危機は旧来の経済学ではまったく対応できない!
バランスシート不況の分析で、世界から注目を浴びるリチャード・クーが、世界大恐慌を回避するために、いま日本と世界はどう対処すべきか、明確な見取り図と処方箋を提示する。
<立ち読み>
目次
第一章 サブプライム問題は戦後最悪の金融危機
第二章 住宅バブル崩壊のアメリカはバランスシート不況
第三章 ドル危機に世界はどう対処すべきか
第四章 日本はバランスシート不況を脱却できたか
第五章 日本に襲いかかるグローバリゼーションの大波
著者プロフィール:
リチャード・クー Richard KOO
NRI研究創発センター 主席研究員、チーフエコノミスト
著者は、積極的な財政出動支持派、いわゆる「ケインズ主義」の流れを組む主義主張をする人で有名かと思うんですが、麻生現総理のブレーンのひとりなんですね。
で、この人と対極をなすのが竹中平蔵氏。その竹中氏は小泉元総理のブレーンでサプライサイド政策・緊縮財政派。
となれば、今回のばらまき減税策が出てくるのもむべなるかな。
どっちが正しいかは、時代背景により異なってくるんですが、今の金融危機的な状況下では積極的な財政出動やむなしでしょうね。
金利を下げても、民間からは有効需要が出てこない。
バランスシート不況の後遺症が続いて、企業も個人も積極的な投資に動きにくい。となれば、政府の出番。ただし、使い方はグローバリゼーションに対応したものにすべきである。
というのが本書での筆者の主張のメインです。
例によって、内容のピックアップ
・サブプライムローン問題から派生した金融危機により、金融機関同士が(隠れた損失は巨大なのではと)疑い合っている。それでは、インターバンク市場は動かない。
それが金融市場が機能不全に陥るということ。
・金利を下げて資金が回っていったところが必ずバブルになり、その後崩壊する。
・企業のバランスシート修復が終わった後は、「借金拒絶症」になる
・不況から完全に立ち直らないうちの財政再建政策は、金融機関の貸し渋りを招き、かえって事態を悪化させる。
・ゆえに、5年計画(最低でも2-3年)レベルの政府の景気下支えは必要。
・時価会計は、市場が悪化すると価格が限りなくゼロになるという欠陥あり
・日本が積極的な財政出動を行ったおかげで、世界には迷惑はかけていない
・ドイツの不況に対して、(財政赤字対GDP比3%以内の限度値があったことにより)財政出動が行えなかったことが、EUの低金利政策につながり、バブルとなった
・個々の国で財政緊縮をすると、世界全体では有効需要が出てこないという「合成の誤謬」が怖い
・インフレの心配は通貨が安くなっている国だけでいい
・石油のドル表示がなくなるとか、ドルが基軸通貨から外れると、ますますドル安になって他国も危機になる
・通貨切り上げは日本をはじめとするアジア側から言い出した方が、アメリカに危機感が高まる
・食品価格高騰も懸念しなければならない
・民間の貯蓄余剰を吸収するためには世界レベルでの財政出動が必要
・現世代が財政出動で景気を良くしても、それが後の世代に借金になって残るとよく言われるが、貯蓄に回れば後の世代に引き継がれるし、今景気を良くしないと後の世代がかえって困ることになる。
・買収防衛策に注力する経営者は本業がおろそかになる
・今の日本の状況は「バランスシート不況」の最終局面。緊縮財政方向へかじ取りすること、一気に景気が冷え込む。減税するなら法定償却年数の時限的短縮など企業の投資を促進する方向へ向かうべき。
・新銀行東京のずさんな融資実態は、ゆうちょ民営化に際し他山の石とせよ。また、これは資金供給を増やしても民間資金需要に効果がなかったことの実証でもあった。
・新規事業分野への融資は、どうしても審査が甘くなりがち
・政府が積極的な財政出動をしても、日銀がしっかりしているから大丈夫。ただし、その功績は「(ハイパーインフレを防いだとか)事態をより悪化させなかった」というレベルであって、なかなか評価はされない。しかしながら、何もしなければもっと悪化した。
・内需が伸びないのはグローバリゼーションの影響
(中国の労働力が低コストだから)
・欧州はグローバリゼーションの試練を30年前に対日本で経験し、乗り越えている。それは常に新しい価値を生み出し続けること。
・グローバリゼーションの過程で、リッチ層がたくさんのお金を使い、残りの人がそのおこぼれにあずかるという社会構造になってくる。
・日本で景気が良くなっても、将来が今より悪くなると思う人が減らないのは「グローバリゼーション」への潜在的な恐怖から
・日本では先輩の功績を否定することをしにくいので、新しいものが出てきにくい
・地方を見捨てた自民党、地方に食い込む民主党
(小沢氏は民主党を自民の右に持ってきて、2007年の参院選で勝利した)
・民主党は税制をゼロ構築するという提案をすべき
・日本の社会がリッチにならないのは住宅が15年で価値0になるようなものしか建ててきてないから。